ポートランドの日系人が強制移住させられた歴史を知っていますか?―Oregon Nikkei Legacy Center

太平洋戦争のさなか、ポートランドの日系人は強制収容所に送られ、過酷な生活を強いられた。戦争から70年を経た今、その歴史的事実を知る人は決して多くない。

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日米開戦から2ヶ月後の1942年2月。アメリカ政府は、「敵国」になった日本と、太平洋を隔てて面する西海岸に住む日系人を収容所に隔離する措置を決定。4月にはポートランドにも命令が下り、わずか一週間で住み慣れた我が家から収容所への強制移住を余儀なくされた。

彼らの家やお店はそのまま放置され、”日本町”はたった一週間でもぬけの空になった。

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Oregon Nikkei Legacy Centerは、そんな困難な時代にも決してあきらめず、たくましく生き抜いた日系アメリカ人の歴史と文化を後世に伝えるためのミュージアム。

ダウンタウンの北東China Town地区に、2004年に設立された。今ではChinaという名前が付いているこの地区は、戦前には移民が多く暮らしていて、日系人が集まって暮らす「日本町」もここにあった。今ではChinaっぽさもすっかり薄れてしまっているのだけど。

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案内してくれたExecutive DirectorのLynn(リン)は日系3世。彼女の父は戦時中に収容所生活を体験している。

「父は、収容所での体験を決して家族の前で口にすることはなかったの。もちろん、そういう事実があった、ということは知っていたけど、詳しいことは分からなかった。初めて父の口からその話を聞いたのは、私が大学生の時、研究論文を書くために父にインタビューした時だったの」

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山崎豊子の小説「二つの祖国」は、戦争に翻弄された日系人の悲劇を描いた物語。収容所への強制移住についても詳しく書かれてる。ぼくは、たまたまそれを読んで知っていたけど、きっと知らない人の方が多いと思う。

「今ではアメリカ政府も、強制移住は誤りだったと認めているの。でも、学校で使うアメリカの歴史の教科書に強制移住のことはほとんど書かれていない。ここに来る人の多くが『そんなことがあったなんて知らなかった』って驚くわ」

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これは、たった一週間の猶予しかない強制移住で、持って行けるのはスーツケースひとつだとしたら何を詰め込むかを体験する展示。

「パソコンかなー。収容所はWi-Fi使えるかなー?」 そんなアホなことを考えていたぼくは情けない限り。

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ポートランドの日系人の多くが移住させられたMinidoka(ミニドカ)収容所は、オレゴンの東隣、アイダホ州の砂漠のど真ん中に作られた。冬は氷点下、夏は40度。砂漠の土埃が容赦なく吹き付ける過酷な環境。材木とタール紙でできた粗末なバラックじゃ、とても防げない。

収容所の周りには有刺鉄線が張り巡らされ、脱走者は射殺せよとの命を受けた兵士が常駐していた。

常設展では、こうした戦時中の苦難の時代を中心に、初めてオレゴンに移り住んだ日系一世の黎明期の暮らしから現代に至るまでの歴史を伝えている。

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常設展の他に、期間ごとに変わる特別展がある。取材当時の特別展は「YOSEGAKI HINOMARU」。日本兵が戦地に赴く前、家族や近所の人たちが激励のために寄せ書きした日の丸の旗。戦闘に勝利した米兵が戦利品として持ち帰った寄せ書きを、遺族へ返還することを目的とする団体OBON SOCIETYの協賛による展示。

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これは戦利品の日の丸を手にした米兵の写真。戦闘に勝利した自信が漲る目に圧倒されてしまった。正直言ってカッコいい。戦利品を持ち帰る兵士を責めることなんて、もちろんできない。自分だって同じ状況ならきっとそうしてる。

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これは戦地に赴く若き日本兵を送る記念写真。彼の胸に、家族の、友人の胸に、この時どんな思いが巡っていたんだろう。この写真一枚の奥には、きっとたくさんのドラマがある。

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取材の最後。ぼくはリンに聞きたいことがあった。

戦後の焼け野原から立ち上がって奇跡的な経済成長を遂げた日本。それを直接経験していないぼくたち若い世代も、そのことは誇りに思っているけれど、同時にその頃の勢いはもう戻ってこないとあきらめてもいる。なんとなく衰退していく閉塞感を多くの人が感じている。かといって、「世界に出る」なんて、とても大それたことのように思える。

アメリカに生きる”日本人”である日系人から、自信を無くしがちな日本の若い世代(自分含む)にエールが欲しかった。

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「日本人には、ユニークな個性がある。それは、高い職業倫理(work ethic)、勤勉さ(hard working)、あきらめない心(never give up)、そして家族を大切にすることだと思うの。それは、ずっと持ち続けてほしい日本人の誇り」

謙虚で控えめ、アピール苦手でもいいと思う。日本人もグローバル化に対応しなきゃ取り残される、なんてよく言われるし、ぼくもそう思っていたけど、実際にアメリカに来てみて、少し考え方は変わった。

ポートランドで成功している日本人や日系人は、皆一様に謙虚で控えめで、働き者だ。

「アメリカで生まれ育った日系人の子は、確かに考え方はアメリカ人に近いと思う。でも、成長していくにつれて、日本人という自分のアイデンティティに気付くことも多いの」

リンをはじめ、アメリカで生まれ育った日系3世以降の世代の多くは、日本語は話せない。

でも、日本人の心はそのまま、ここにある。

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2016年2月29日まで、Noren Portlandの記事を読んで来たと受付で言ってもらえれば、入場無料でOregon Nikkei Legacy Centerの見学が可能です。この機会に是非訪れてみてください。

Oregon Nikkei Legacy Center

place 121 NW 2nd Ave Portland, OR 97209

time火-金:11am – 3pm, 日:noon – 3pm

web WEBサイト

入場料:5ドル
TEL:503-224-1458

OBON SOCIETY

web WEBサイト

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