衣食住音ーー野外音楽フェスPickathonの取り組み

昨年の夏、東京は殺人的猛暑だったと聞いている。筆者はその頃ポートランドで留学を終えたのち、粘り強く滞在を続けていた。よりローカルに、より生き生きと残りの時間を過ごすために、なにかに飛び込んでみようと思った。

そんなこんなで友達もいなかった筆者は昨夏ひとりで参加したイベントがある。今回はそのイベントとその取り組みを力強くお届けしたい。

今回は2018年の8月2日から6日まで行われ、20周年を迎えたポートランドの音楽フェスをお伝えする。
その名も「Pickathon」だ。発音は少し難しい。
この音楽フェスは年1回行われ、簡単に言えば環境に配慮した循環型社会いわゆる「サステナビリティ」と音楽を融合させたポートランドらしさ全開のイベントである。

しかしながら、ポートランドに住む人でも、筆者の周りの大学生や社会人でも、このワードを聞く限り「なんだそれ」と、少なくとも筆者の周りではほとんど知らなかった。この記事をきっかけに多くの日本人の方にも知ってもらえるとなれば幸いだ。

地元でさえこんなに知名度の低い理由はきっとこうだ。このフェスが行われる会場へはダウンタウンからMAXのグリーンライン終点まで約50分揺られなければならない上に、多くのボランティアの人たちでさえ、出演する歌手やバンドのことを全然知らないからであろう。これは割と不思議に思った点なのだが、単純に特定のバンドに興味がないのか、出演バンドが無名なのかはわからない。ただ、ひとつ言えるのは、これもまたインディーズ音楽に優しいポートランドならではなのではないかということである。

 

まだまだこの記事は冒頭である。お伝えしたいことがたくさんあり、気長に読んでいただければと思う。

 

会場となるのはダウンタウンから南東に位置するハッピーバレーという郊外。街の雰囲気としては、郊外だからだろうか、芝生や街路樹が印象的な道沿いには、豪邸と言っていいような立派な家が並ぶ。ほとんどの家はキャンパーを所有しており、そのスケールの大きさがうかがえる。地区が変わるごとにショッピングモールが現れ、なんとなく1地区1モールなのではないのかなという単純な思考にたどり着く。

こんな行ったこともない街の情報は、最寄駅から会場までの無料シャトルバスから眺める車窓が教えてくれる。バスは朝7時から1時間に1本のペースで、最寄駅にて列ができるほどでもない人数を会場まで運んでくれる。毎日深夜2時頃まで行われるこのイベントには夜間に会場から出るシャトルバスも必要不可欠だ。
ちなみに「エコシャトル」と呼ばれるシャトルバスだが、何がエコなのかはよく分からない。もしかしたらと、行きに乗った朝と、帰りに乗った夕方のドライバーが同じだったことから、そういう意味のエコなのかなと少しだけ思うのであった。

チケットのチェックインを済ませ、会場へ入るとまず馬舎がある。そういえばここは農場なんだっけと思い出せば、ロゴマークが馬だったことも思い出す。

こちらはメインステージ

 

会場には幾つかのステージがあり、ステージごとにエリアが分けられている。農場といえど、山の一部に存在するトレイルに沿ってエリアが設置されている。そのためエリア間の移動は歩かざるを得ないものの比較的涼しく、木漏れ日を浴びながら移動ができる。これも自然に囲まれ自然を生かしたフェスならではの光景ではないだろうか。そのトレイル沿いにはテントが張られ、キャンプをして4日間をぶっ通しで楽しむ人もいる。またエリアごとには、これもポートランド文化と言っていいだろう、地元のレストランが出店しているフードカートが並ぶ。人々はステージ前で椅子に座ったり、寝っ転がったりして、あたりまえのように流れる音楽を聴きながら、地元の料理をも楽しむことができる。それだけでなく、並ぶお店の中には、テントや衣類を販売するポートランドの地元ブランドや、ブーツなどの革製品を販売するクラフトショップなどもあり、大いにファッションも楽しむことができる。そして人々は思い思いのファッションを身にまとい、フェスに臨む。中には半裸のおじさんもいるが、さすがに半裸の女性はいない。
音楽フェスのお店は高いイメージがあるがここではフェス特別価格はあまりない
筆者が食べた照り焼きチキンプレートにはグリーンサラダorマカロニサラダが付いて13ドル+チップ。ライスは2スクープ

 

ご覧のように、すべてのお店で提供される料理にはこのプレートが使われる。この赤いプレートはメインステージのあるエリアのみで使われ、その他のエリアになるとこの色は変わる。
ゲストはプレートを管理するブースにて「トークン(引換券)」と呼ばれる木製のコインを10ドルで購入し、お店へ行く。注文した料理がプレートとともに提供され、お店にトークンを渡す(料理代別途)。食事後には、トークンを購入したブースへとプレートを返却。それと同時に再びトークンがもらえるという仕組みである。デポジットシステムを想像していただけるとわかりやすいかと思う。最後にトークンを買った10ドルは返却されないが、記念として綺麗なプレートと交換し家へ持ち帰ることもできる。
トークンとプレートのシステム

 

また、料理を提供するお店以外にも飲料を提供するお店がある。その場合にも、先述のブースで規定の金属製コップを6ドルで購入しその容器にジュースやコーヒーを提供してもらうことができる。今回はプレート持参のケースは目撃しなかったが、コップに関しては以前のものを使い回すフェスリピーターも多く見受けられた。無論、以前購入した容器を持参すれば毎年それを購入する必要なく節約もできるし、何より地球に優しい。
そして飲料水も無料で提供されている。「Klean Kanteen」という水筒を製造販売する会社によってサーバーが提供され、ゲストは自前の水筒や飲料ボトルを持参するだけだ。当然先ほどのコップも使用できる。

これらの取り組みは大勢のボランティアによって支えられている。このシステムを維持するためのディッシュクルー、いわゆるプレートを洗い続けるボランティアだったり、ゲートに入る際のセキュリティチェックだったり、会場内のゴミを定期的に回収し常にゴミ箱を新しい状態にするスタッフなど、まさにボランティアありきのイベントと言っていい。ボランティアたちには地元の学生もいれば、州外から参加する人までいる。また、誰が本当にこのフェスのスタッフとして働いている人なのか見分けがつかないくらいカオスである。
実際、ボランティアの多くの目当ての1つは無料で発券されるフェスチケットであることは言わずもがなだが、Pickathonのサステナビリティを支える要素の一つであることに変わりはない。
きっとどこかにタンクがあって、永遠に出る水

 

この仕組みは、イベントにおけるプラスチック容器や紙製容器の使い捨てを防ぐ取り組みの一環である。こうした大きな音楽イベントがこのような取り組みを率先して行い、参加者はその協力を以て、少しでも意識的に環境への配慮を行うことができる。これはまさに日本においても導入されるべき取り組みであろうかと思う。
話が逸れるが、日本でも「ap bank fes」をはじめとし、最近では「Fuji Rock Japan」などの野外音楽フェスティバルも環境教育の重要な機会として注目され、「音楽と環境」はしばしば隣り合わせで語られることが多い。中でもap bank fesは素晴らしく、例えばマイ箸やマイ食器の持参を推奨するなど、物質的に環境への取り組みを意識させることのほうがメインなのではないかと思えるほどのコンセプトだ。
音楽がこのような取り組みに結びつくのは、どこか音楽が精神的な健康や、人間が人間らしく生きるための環境、生き方としての自然との共存を考えさせられるからである。だからこそそれをきっかけにして、日々の生活から個人単位で取り組んでいってもらいたいという思いがあるのだろう。
しかしながら、こういった取り組みがあるにもかかわらず、日本ではいまだにスーパーのレジ袋はプラスチック製を使い、レストランなどでは衛生観念からだろうか割り箸をすすんで使っている。私感だが、改めて日本の使い捨ての感覚は世界一だと思う。(ほめていません)
さて、Pickathonにおいて音楽の他にも重要なのがキャンプである。今回キャンプやテントを全面的に支えていたのはPolerという地元のアパレルショップだ。基本的には自前のテントだったり、キャンプ一式を持参してくるが、中には手ぶらでキャンプができるというチケットや、キャンパーでそのままキャンプができるパーキングチケットもあるくらい、キャンプもまたこのフェスの醍醐味なのである。トレイル沿いにはいくつかキャンプゾーンがあり、トレイルの分かれ道の先はキャンプサイトへの入り口になっていたり。たぶん、大人でもワクワクする。リアルな音楽ダンジョンを体験しているようで楽しい。
トレイルに存在するキャンプサイト。もはや芸術か

 

トレイルには、こうした光景が続くほかアートも存在する。移動中も飽きることなく楽しめる魅力の一つではないだろうか。

そうしてメインステージのあるエリアから1つ目のトレイルを抜けると2つ目のエリアにたどり着く。このステージは「Treeline Stage」と呼ばれ、無数の木が突き刺さったようなセットが特徴的だ。メインステージよりもだいぶ小さく、山の斜面に沿って設置されたステージだが、その小さなスケールと優しさに、なんとなく落ち着いてしまう。

そして何より、このセットを担当したのが地元を代表する大学であるポートランド州立大学建築学科の学生たちであり、ここでもまた地元とのつながりを象徴する取り組みにポートランドのローカル志向を垣間見る。

ツリーラインステージ
ステージの裏のセットの中で涼む人々。木の線が美しい

 

このフェスでは1人で来る人よりも家族連れや夫婦、男女のグループで来ている人が多い印象があり、非日常でありながらより生活に近い感覚で体験を共有できる雰囲気がある。年齢層はこどもから大人まで幅なんてない。

また、ステージと観客との距離が近く、強い一体感も印象的で、ましてやガードマンなんて見当たらず、それぞれがそれぞれのために音楽を楽しんでいる様子がうかがえる温かみのある空間である。すごく不思議だったのは、特定のバンドのために訪れている人はあまり存在しないんじゃないかと思うくらいバンドへの注目度が毎回変わらないことだ。それに加え、バンドを切り替える時間も長めで、全体的にゆっくりとした時間が流れるのも特徴である。音楽の内容よりも、より漠然と音楽を音楽として生活の一部とするような感覚だろうか。

フェスは自分を表現する場、自分の感情を爆発させる場、自分の感性と向き合う場と言わんばかりに、人々はその感情を表現する。その表現方法は人それぞれで、それは音楽を奏でることでも、食を振る舞うことでもよくて、「自分」が「自分」である確信を得られればなんでもいいはずだ。

タイトルの通り「衣食住音」というこの4文字は、筆者が感じた率直な感想だ。このフェスはこれらの要素が一体化した上でしっかりと形となっている。

トレイルではこどもたちが楽器を演奏したり、パフォーマンスをしてチップをもらおうとしている光景を見ることができ、トレイル沿いのキャンプサイトでは一息つきながら一緒に歌を歌っている家族がいる。

ステージ上の音楽だけでなく、彼らは自ら奏でていた。

「音楽」が「聞くもの」を超えてまさにくらしの要素になっていることを目の当たりにした瞬間だった。

くらしはよく「衣食住」と言われる。ここPickathonにはフェスの要素として当たり前に存在する「音楽」とくらしを支える「衣食住」が「ローカル」を介して結びつき、よりリアルを味わうための場が整っていた。

Pickathon

web WEBサイト
毎年8月上旬開催
ハッピーバレー (オレゴン州)
Pendarvis Farm

place16581 SE Hagen Rd, Happy Valley, OR 97086

Twitter: @pickathon
Instagram: @pickathon
Facebook: Pickathon

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