Cool Portlander:『街づくりの匠集団 ZGFで活躍する 渡辺義之さん』 【第2部】人と環境に優しいポートランド流デザイン

革新的な街づくりを展開していることで世界中から注目を浴びているポートランド。そんなポートランドの街づくりに大きく貢献しているのがZGFアーキテクツ(Zimmer Gunsul Frasca Architects 以下ZGF)です。第1部ではZGFに所属する日本人建築家の渡辺義之さんがポートランドで働くことになった経緯やポートランドの街づくりのキーエレメンツについてご紹介しました。第2部ではサステイナブルなポートランド流デザインについて渡辺さんの考え方を色々と伺いました。ポートランドが注目を浴びている理由がきっと掴めるはずです。

『エネルギーや水をあまり使わない。ゴミを出さない。そうすることで環境に良い場所を作る。』

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NZGFの事務所が入っているtwelve westの特徴

Watanabe私がボストンで12年学び働いた後、ポートランドに来て初めて勤めた会社がZGFで、最初に任されたプロジェクトがこのZGFの建物のデザインです。サステイナブルデザインの代表的な建物としてLEED(Leadership in Energy & Environmental Design・エネルギーと環境デザインのリーダーシップ)で最高評価のプラチナ認証を取得しています。建物の外部、エントランスからの階段、共用部などは僕がデザインして設計図も描いています。

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サステイナブルとは直訳すると『持続可能性』ということです。エネルギーや水をあまり使わない。ゴミを出さない。そうすることで環境に良い場所を作る。その結果「それって居心地いいよね。」という話です。サステイナブルなデザインをするために様々な工夫をしています。

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この建物の窓は大きく作ってあるので太陽光が入ってきて照明をあまり使わなくてすみます。また照明には全部調光器がついているので外が暗いと自動的に点灯し、夏場だと太陽光が多く入ってくるので照明が落ちてエネルギーを使わないようになるという仕組みになっています。
天井の設備はチルドビームといって、水が入っていて夏場になると冷気が下の方に落ちてくるという輻射熱を利用した空調システムです。ポートランドは日本と違って湿度が低いので一般的な夏の日だと窓を開ければいい風が入ってくるんですが、それだけでは対処できない程暑くなると、チルドビームが作動します。

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建物の屋上には風力発電が設置されています。この建物のエレベーターの電力を作るくらいの容量です。屋上に降った雨水はろ過して地下に貯水しています。8万リットルくらいの容量のタンクがあるんですよ。タンクに貯めた雨水はオフィスのトイレ洗浄水に再利用したり、屋上の庭園とか、テラスの散水に再利用しています。

『侘び寂びにつながる細さがあってそれが形になっていくんですが、そういうものを大事にしたいという感覚』

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N自身のの設計に落とし込んでいる『日本の美意識』とは?

Watanabe線の細さですね。僕の設計の仕方はペンを持って手を動かします。若い人はコンピューターにいきますが、僕くらいの年代の人間はトレースといって薄い透き通る紙の上に自分で設計するために線を引きます。京都の寺社仏閣や趣のある建物というのは線が細いんです。(渡辺さんが実際にペンを使って何本かの線を描きながら)こういう細さの線が重なって出来てくるんですけど、アメリカの線は太いんです。この線を色々描いて最後に自分にとって一番重要な線はどれか選ぶんです。そういう日本的な設計手段、日本的美意識というのは侘び寂びにつながる細さがあって、それが形になっていくこと。そういうものを大事にしたいという感覚が「日本の美意識を設計に落とし込んでいる。」ということですね。

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ZGFのオフィスが入っている建物『twelve west』も外部の方が階段の空間に入ると「なんかちょっと日本ぽいですね。」と良く言われます。それはやはり変に重くないというか、軽やかに仕上げているというのが特徴だからだと思います。

『ミックストユースの街づくりができていないところにエリアマネジメントと言って賑わいを出そうとしても至難の業です!』

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N近年、日本では地域環境や地域の価値を維持・向上させるため、住民などによる主体的な取組み『エリアマネジメント』が進められている。ではポートランド流エリアマネジメントとは?

Watanabeポートランドの街づくりの要諦(ようてい)というのは『ミックストユース』です。いろんな用途、つまりオフィスや商業や住宅を混ぜ合わせて街づくりをしています。色々なところで『エリアマネジメント』という言葉を聞かれると思いますが、ポートランドで『エリアマネジメント』の一番のメインは『ミックストユース』だと僕は思っています。

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それを建物として体現したのがこの『twelve west』です。1階は全部商業、2階から5階までは250名が働くZGFのオフィス、6階から23階までが273室の賃貸マンションとなっています。なぜそういう建物を建てるのかというと、昼間人口と夜間人口を平準化するためです。昼夜平均して人がいるようなエリアになると1階の商業もお客さんをそれなりに見込めるので営業がしやすくなります。

ポートランドのように密度が低い地方都市では、『ミックストユース』の街づくりができていないところ、つまり職住バランスが崩れているエリアにエリアマネジメントと言って賑わいを出そうとしても至難の業です!日本のエリアマネジメントをやってる方もそれはきちんと理解するべきだと思います。日本から来て、半日だけポートランドにいてすぐ他に移動するという方が中にはいらっしゃるんですが、できれば1日か2日泊まって街をブラブラと歩いて朝昼夜の様子をを見て頂くのが『ミックストユース』の効力を肌で感じられる一番いい方法だと僕は思います。

『エコノミーとエコロジーをバランス良く街の中に作っていきながら街の基本構造を『ミックストユース』にする。』

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Nエコディストリクトという考え方

Watanabe『サステイナブル』と同じですが、エコとつくと日本人の方はだいたい環境系の話と思われますが、エコノミーのエコも『エコ』なんです。エコノミーとエコロジーの頭文字『エコ』は両方とも重要で、『エコディストリクト』というのはエコノミーとエコロジーをバランス良く街の中に作っていきながら街の基本構造を『ミックストユース』にするという考え方です。一般的には『コンパクトシティ』というものになりますが、あんまり僕は『コンパクトシティ』という言い方は好きじゃなくてポートランド的にいうと『20 minutes neighborhood(20分徒歩圏のネイバーフッド)』という言い方をします。

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日本的な『コンパクトシティ』というのはどちらかというと街を作る側の考え方を押し付けられているように感じます。一方、ポートランドの場合は街を使う側が便利だから20分徒歩圏で全ての用途が用意できる環境を作るという考えで作られています。それがたくさんできることによって最終的にはコンパクトに見える街ができているというのがポートランド的な街づくりの考え方です。
街づくりの目線、出発点が全然違います。だからそういう使用者重視の街づくりが行なわれているポートランド的なものを、日本から視察に来る方にはぜひ見て体験して頂き、帰国後には実践していただけたら良いなと思っています。

『屋台村はポートランドの街の作り方を凝縮している。』

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Nポートランドで好きな場所、お薦めな場所

Watanabeポートランドの街の中で好きな場所はウィラメット川の東側地区にあるSE Division Streetですね。Divisionにある屋台村の「Tidbit Food Farm and Garden」は一般的な屋台村と違って色んなサービスがあります。あそこはポートランドの街の作り方を凝縮しているんです。屋台をある擬似的な建物だとすると、それらは街路空間側に置かれていて街路空間というのをきちんと定義付けています。屋台村の空間に入ると真ん中にテントが張ってあるコミュニティスペースや暖炉があって、向かい側にも屋台が幾つかあるので、すごく空間が締まる。街路空間が締まるし、中も街路空間とは違う空間がそこにある驚きというか発見があって、面白いですよ。

『全米で一番住みやすい街と言われているポートランドには、それを陰で支えている人達がいることを日本の方に知っていただきたい。』

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Nこれからの目標

Watanabe個人的には建築デザインの業務と平行して街づくりの仕事を続け、ポートランドと日本の橋渡しをしたいと思っています。アメリカの中規模地方都市であるポートランドの人口は60万人で、これは鹿児島や姫路、松山といった日本の地方都市の規模と似ているので街づくりの参考になるはずです。ポートランドではこの60万人をうまく配置しています。つまり60万人があちこちに散らばっているのではなく中心市街地に集まり、賑わっているように見せる『演出の仕組み』というのがすごくしっかりしています。デザインガイドラインもその一つですし、建物の作り方や街路の作り方もそうです。全米で一番住みやすい街と言われているポートランドがどうやってできているのか?実はその陰には、『演出の仕組み』を考え、提案し、運用している官民の隠れた立役者達の勇気と先駆的なアイディアがあるということを日本の方に知っていただきたい。そして『演出の仕組み』のノウハウをたくさん持っているポートランドの人達から色々話を聞き、現在疲弊していると言われている日本の地方都市を活性化するためのヒントにして頂ければ非常に良いことだと思います。

渡辺義之(Yoshiyuki Watanabe)

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ZGF Architectsアソシエート・パートナー/建築家

1966年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。金融機関勤務後、建築のデザインを学ぶためボストンへ留学、1998年マサチューセッツ工科大学にて建築学修士取得。ボストンのKallmann McKinnell&Wood建築事務所に8年勤務後、2006年にポートランドにあるZGFに移籍。サステイナブルな街づくりや日本の美意識を落とし込んだ設計を行う。主なプロジェクトにtwelve west(LEEDプラチナ認証取得)、John Jaqua Center for Student Athletes(2011年度米国建築家協会最優秀インテリア賞など主要デザイン賞を多数受賞)、ナイキ本社新社屋、柏の葉イノベーション・キャンパスのビジョン提案などがある。また2016年度には渡辺氏が所属するZGFは米国建築家協会の建築事務所ランキングにおいて1位を獲得している。共著書に『海外で建築を仕事にする2 都市・ランドスケープ編』(学芸出版社)。

ZGFアーキテクツ(Zimmer Gunsul Frasca Architects)

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《記事内で紹介した日本プロジェクト》

幕張若葉地区プロジェクト

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柏の葉スマートシティ・プロジェクト

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