Cool Portlander:『街づくりの匠集団 ZGFで活躍する渡辺義之さん』 【第1部】ポートランド流街づくりのキーエレメンツ

革新的な街づくりを展開していることで世界中から注目を浴びているポートランド。そんなポートランドの街づくりに大きく貢献しているのがZGFアーキテクツ(Zimmer Gunsul Frasca Architects 以下ZGF)です。環境と共生した持続可能(サステイナブル)な建築や街づくりの提案で高く評価されているZGFは米国建築家協会が毎年発表しているアメリカの建築事務所ランキングにおいて2016年度ナンバーワン(The number one of the 2016 Architect 50)を獲得しました。今回NorenはZGFに所属する日本人建築家の渡辺義之さんにポートランドの街づくりについてたっぷりとお話を伺ってきました。

『金融を通して不動産の開発に携わってみたかったのです。』

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N金融の世界から建築の世界へ転身

Watanabe私は昭和が終わり平成に移る時に不動産の開発などをバックアップしていることでその筋では有名な金融機関に就職しました。もともとはディベロッパー関係の仕事に就きたいと思っていたんですが、最初にその金融機関の内定が決まったので、そちらで働くことにしました。4年半くらい勤めてディベロッパー達と一緒に色々な開発をやっているうちに「自分で描いて設計するのも面白いんじゃないか?自分にはできるんじゃないか?」と無理矢理自分自身に思い込ませて会社を辞め、1年後に留学のためにボストンに渡りました。

『実際入ってみたら建築関係については一切知りませんという人ばかりでした。』

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N建築の勉強をするために渡米。卒業後は日本ではなくアメリカで働くことを選択

Watanabe今の時代は多分そういうことはないと思うんですが、僕が留学を考えていた1992年か1993年頃は今とは教育システムが違っていました。僕が卒業した経済学部は文系で、日本では建築学部というのは理系になります。日本ではその当時、文系から理系の大学院に行くというシステムがなかったため、アメリカに行って修士に入ったほうがいいんじゃないかと考えました。アメリカでは建築学部は文系ですし、加えてアメリカの修士はバックグラウンドが違う人でも建築への考え方や建築関係の技能をある程度見せることができれば入学を許可しているところがあるのでアメリカの大学院をいくつか選び、願書を出したところボストンの学校(マサチューセッツ工科大学/MIT)の許可が出たのでそこに行くことになったのです。実際入ってみたら建築関係については一切知りませんという人ばかりでしたよ。通常2年とか2年半のマスターが多いんですが、僕の場合は建築のバックグランドを持っていなかったので3年半のプログラムが用意されていました。卒業したら1、2年くらいアメリカで仕事ができればいいだろう、その後は日本に帰って仕事をするんだろうなと思っていたんですが、デザインの仕事が非常に面白くて、結局8年間もボストンにいることになりました。

『雨が降っていることを寂しいと感じたんですが、雨の香りから日本人的な四季を感じて、ポートランドが気に入りました。』

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Nポートランドで働くことになったきっかけ

Watanabeもともとは有名事務所が多いサンフランシスコで仕事をしたいと思っていたんです。でもサンフランシスコの人に「ZGFって知ってる?すごくいい会社だからインタビューしてみたら?」と言われて受けてみたら受かったのでポートランドに来たんですよ。初めて来た時は11月で、雨が降っていることを寂しいと感じたんですが、雨の香りから日本人的な四季を感じて、ポートランドが気に入りました。それに夏は乾季で気持ちが良いですしね。
ポートランドを選んだもうひとつの理由は妻の兄が盛岡に何軒かワインレストランを経営していて、僕が遊びに行くと色んなものを飲ませてくれるので、そこでワインを好きになってしまったんです。だから一生に一度はワインの産地に住んでみたいなと思い、ワイナリーが近郊にあるポートランドを選んだというのもありますね。

『色んな工夫をして街路空間を歩きたくなるような空間に公民がしているので、ポートランドはウォーカブルな街になっているんです。』

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Nポートランドの街が歩きやすい理由

Watanabeポートランド的な街づくりの特色というのは『ウォーカブル』だと思うんです。街がウォーカブルなのは公道空間、歩道空間というのを綺麗に設計しているのが大きな理由です。よく本にも書かれていますが、ポートランドは『60m✖️60m街区方式』を取っていまして、全米で一番小さい街区です。一般的な街区のサイズというのはその4倍で120m✖️120mなんですが、60m✖️60mにすると街区が4つに増えるだけじゃなく、道の面積というのは1.5倍になるんです。道の面積が1.5倍になるということは、もし街路空間が非常に殺伐としたものであれば人は歩道を歩かなくなります。だから色んな工夫をして街路空間を歩きたくなるような空間に公民がしているので、ポートランドはウォーカブルな街になっているんです。それをいろんな意味で手助けしているのがZGFになります。

『木を見て森を見ない設計方法は街づくりを難しくする。』

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N日本でもウォーカブルな街づくりは可能か?

Watanabeできると思います。でも通常は予算に余裕が無い行政側が公道、つまり官民境界線の官側のエリアをあまりウォーカブルに整備したがらないんです。だから、街づくりに積極的な民間の会社に対して、彼らがなにかしらの開発や建物を建てる際に「少し民地を綺麗にしてください。」とか、「そこにテラスのための空間を作ってください。」という提案をします。クライアントに恵まれてそういう提案をたくさんしたのが幕張若葉地区柏の葉プロジェクトです。
もう一つの課題は、多くの日本の建築家は建築デザインの都合を最優先して建物の設計をしてしまうことです。彼らは街づくりへの関心が薄いので自分たちの建物のデザインがどういうふうに街づくりに反映されるのか考えないうちに建築を進めてしまうため、いわゆる「木を見て森を見ず」というか森を考えないで木をどんどん作ってしまい、街づくりを難しくしています。例えば街づくりの視点からはテナント配置を工夫し、路面に幾つもドアや窓を設ければ賑わいが出てウォーカブルになるはずなのに、格好の良し悪しや予算など建築の都合を優先してそれらを削除します。そうやって出来上がった森は街づくりの観点からはウォーカブルでなく、賑わいが起こりえないものになってしまうのです。

『日本とポートランドの一番の違いはデザインガイドライン(景観形成基準)』

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N日本とポートランドの街づくりの違い

WatanabeZGFが設計したパール地区の歩道空間というのは3.6m〜4mくらいの幅です。実はその空間を適当にデザインしているわけではなく、きちんと『ゾーン』に分けて考えています。
一番建物に近いゾーンを『建物隣接ゾーン(Building Front Zone)』、それと反対側に『ファーニッシュゾーン(Furnish Zone)』。ファーニッシュゾーンには街路樹、マンホール、ゴミ箱、ベンチなどがあったり、フラワーボールが飾ってあります。日本では建物隣接ゾーンにあたる場所に看板を置いたり、テラスを置くのは禁止されていると思うんですが、ポートランドではそれを奨励していて、いくらかのお金を市へ払うと設置することができるようになっています。1フィートが年間で約$10〜$15です。
テラスを置くことによって人がたくさん来て街の賑わいにも繋がります。そして『デザインガイドライン』によって建物1階に窓が多く設けられていて、通りの賑わいが屋内の人達の目に触れ、屋内の賑わいも外に滲み出して街全体が賑わっているように見える仕組みが整備されています。日本ではこの整備は遅れており、そういうことから日本とポートランドの一番の違いというのはやはり『デザインガイドライン』だと思います。

『デザインガイドライン』というのは日本語に訳すと『景観形成基準』というような言葉になると思うんですけど、行政と民間委員が協力し、街づくりという森の観点から作っています。何が目的かというと建物自身に街づくりに貢献・協力してもらうんです。ポートランドでは中心市街地のデザインガイドラインが整備されていて、それに沿って建物の設計がされています。つまりデザインガイドラインにのっとった設計を建築家が行い、その設計についてレビュー会議で承認をもらって、設計を進めるというのがこの街では一般的なんです。

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Watanabeポートランドの場合はデザインガイドラインで建物の設計をある程度コントロールしているので、例えば建物の1階部分には窓を使うとか、窓の位置もこんな高いところではダメとか、1階部分の壁面の5割はガラスを使うとか、建物のドアはたくさん作らなくてはいけないというような細かい部分まで決まっています。

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Watanabeまた路地にも決まりがあります。路地を作る時も歩行者に便利なように建物の配棟を考えます。60m✖︎60m街区を目一杯使った設計では建物を道路沿いに配棟することで中庭や路地が作られ、歩行者が中庭を通れたり眺められるようウォーカブルな工夫をすることが求められているので、民地の中の街づくりに対する貢献度合いがすごく高くなるんです。それが集積したあかつきには街というのは歩きやすくもなるし、賑わいも出る、というのがデザインガイドラインの趣旨になります。そうしないと日本でよくあるような通りの横が全部壁で、歩いていてもつまらないような街路空間がいっぱいできでしまい、人が街に繰り出しずらくなってしまいます。

ポートランドはワシントン州スポケーン市についで全米で二番目にデザインガイドラインを整備した街です。スポケーンは小さいので、ポートランドは中規模都市以上でデザインガイドラインを整備した一番最初の街になります。

渡辺義之(Yoshiyuki Watanabe)

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ZGF Architectsアソシエート・パートナー/建築家

1966年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。金融機関勤務後、建築のデザインを学ぶためボストンへ留学、1998年マサチューセッツ工科大学にて建築学修士取得。ボストンのKallmann McKinnell&Wood建築事務所に8年勤務後、2006年にポートランドにあるZGFに移籍。サステイナブルな街づくりや日本の美意識を落とし込んだ設計を行う。主なプロジェクトにtwelve west(LEEDプラチナ認証取得)、John Jaqua Center for Student Athletes(2011年度米国建築家協会最優秀インテリア賞など主要デザイン賞を多数受賞)、ナイキ本社新社屋、柏の葉イノベーション・キャンパスのビジョン提案などがある。また2016年度には渡辺氏が所属するZGFは米国建築家協会の建築事務所ランキングにおいて1位を獲得している。共著書に『海外で建築を仕事にする2 都市・ランドスケープ編』(学芸出版社)。

ZGFアーキテクツ(Zimmer Gunsul Frasca Architects)

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《記事内で紹介した日本プロジェクト》

幕張若葉地区プロジェクト

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柏の葉スマートシティ・プロジェクト

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