• Portland State University 経済学部教授

  • Hiro Ito

  • INTERVIEW

  • Writer Fumiko

  • Photographer Tsubo

  • Editor Ryoma

Cool Portlander『ポートランドで感じるリアルなアメリカと、異国で暮らすということ』

ポートランド州立大学・マクロ経済学(国際金融)伊藤宏之教授。
この地で教鞭を執られて11年。教壇に立ち多くの学生たちをご指導されているだけでなく、世界各国の学会で研究論文を発表したり、国際機関のアドバイザー的な役割も果たしたりと、いろいろな方面で活躍されています。伊藤教授のアメリカに対する思い、ポートランドでの生活、ポートランド州立大学で得られる貴重な体験についてじっくり語っていただきました。
 
Interview by Fumiko, Photos by Tsubo, Edited by Ryoma

“今度は教授としてこの大学にやって来て、それには「あ、これも縁かな」って思いましたね。”

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Nどうしてポートランド州立大学(以下PSU)で教鞭をとることを決めたのですか?

Hiro Itoそれは非常に難しい質問で…。
無いんです…理由が。というのも教授職のマーケットは非常に厳しいので、オファーを得られたらそこへ行くというのが基本なんですよ。私みたいな外国人の場合は北米であればどこでも行きますって感じでしたし、就職活動の時は結婚したばかりで子供もいなかったので、特に地理的な制約はありませんでした。そしてPSUとペンシルバニア州にあるリベラルアーツの大学からオファーをいただきました。

N二つのオファーからPSUを選んだ決め手は?

Hiro Ito両親が二人とも病気だったこともあって、できるだけ日本に近い方がいいんじゃないかって思っていました。オファーの内容は二つともほとんど変わりがなく、かたやペンシルベニアの片田舎にある学校、そしてPSUはポートランドのダウンタウン。私はどちらかというと都会的な雰囲気の方が好きなので…それもあってここにしました。
「あ!思い出した。」
大学の時に交換留学の制度があって、その時ポートランド州立大学を留学先に選んで応募したんです。だけど選考試験に落ちちゃったんですね。その後約10年たって今度は教授としてこの大学にやって来て、それには「あ、これも縁かな」って思いましたね。

 

“ポートランドは肩に力が入っていなくて、なんとなーく先進的なことをやっていて、それが日本が行こうとしている方向とベクトルが合っているだけでなく、その暮らし方が手の届きそうな感じがする”

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N日本でポートランドの人気が高まっている今、グローバルな視点から見て日本とアメリカの経済になにか影響が出ると思われますか?

Hiro Itoないでしょうね(笑)。ポートランドはとても小さいから。ただ、やっぱり日本って震災以降すごくポスト・モダニスティックになってきていると思うんですね。モダニスティックっていうのが物質的な幸せを求めるものだとすると、ポスト・モダニスティックはもっとそれよりも精神的な幸せを求めるっていう意味です。ポスト・モダニズムは物質的にある程度幸せを経験した人、つまりモダニズムを経験したことのある人だけが経験できると思うんです。日本では震災によって物質的幸せっていったい何なんだろうってたくさんの人が思ったと思うんですね。

Nポートランドがポストモダニスティックの方向を向いているとは?

Hiro Itoポートランドもアメリカ、特に西海岸だからポストモダニズムをもっと開放的、気楽に、名実ともにやっている。人生の意味を考える時に非物質的なものに幸せを感じたいと思っている。グリーン・エネルギーや水素や風力といった代替エネルギーについて考えよう、それはクールだと考えている。日本もそれに向かっていこうとはしているけど、それがもっと進んだ北欧は手の届かない感じがしてちょっと違うし、ニューヨークや他のアメリカの都市だとなんとなく肩ひじ張ってやっているようでちょっと感覚的に遠い。ポートランドは肩に力が入っていなくて、なんとなーく先進的なことをやっていて、それが日本が行こうとしている方向とベクトルが合っているだけでなく、その暮らし方が手の届きそうな感じがする、そんな場所なんです。

 

“PSUでは『リアルなアメリカ』ってものを経験できる良さがありますね。”

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NPSUで経済学を学ぶ意義はなんだと思いますか?

Hiro Ito2つ考えられると思うんですけど・・・。
1つ目は、PSUはもともと『GIビル』という(第二次世界大戦後の)大学教育を受けるための資金援助を政府から受けた帰還兵を対象にしてできた大学なんです。だからそもそも成人を対象にした教育が非常に強いというか、そこに傾斜してたんですね。教えていても、例えば「失業率が上がったところで経済学的には大した問題ではないんです。」なんてことは気軽に言えないですよね。気を付けないと…、だって失業したからその授業に来ているという人もいるし。帰還兵もクラスの中にいたりするからアメリカの戦争についての発言も気をつけないといけない。だからPSUでは『リアルなアメリカ』ってものを経験できる良さがありますね。

NPSUで学ぶ2つ目の意義はなんでしょうか?

Hiro ItoPSUで学ぶもう一つの強みというのは、“現実” の世界から来ている学生が多いんで、例えば経済理論にしても、理論とは全く離れた現実の立場から全く違う視点で奇抜なことを議論する学生に会えるということですね。もちろん田舎のリベラルアーツ大学のように隔離されたキャンパスでも同じような経験ができるとは思うんですけど、やっぱりリアルさが違う。

 

“自分の中では一応一貫性があって、国際経済法から始まって国際関係学を勉強し、結局国のとる行動なんて経済的な理由で決まるんじゃないかって思い、それで経済に興味を持つようになったんです。”

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N教授が経済学を学ぼうと思ったきっかけは?子供の頃から数字が好きとか貨幣に興味があったとか?

Hiro Ito違うんですよ。お金って名のつくもの本当に嫌いで、高校生の時に父に商学部か経済学部を受けろと言われて「絶対ヤダッ」って言ったんです。その時はマルクス的な思考にとても魅力を感じていて、資本主義とかビジネスなんて悪の権化だと思っていたんです。結局大学では法律を勉強したんです。国際経済法といわれるもので、要するに国の経済的な摩擦を法的な観点から見るというものなんです。ちょうど当時は日米経済摩擦が非常に激しい時代で、なんか自分はアメリカなんて何にも知らないなって思って。

Nそこからアメリカに興味を持ったんですか?

Hiro Ito摩擦の対象国であるアメリカを見てみたくなったんです。その時父に「1年くらいなら行っていい。ただ1年で帰るんだぞ、一生で最初で最後の海外生活だから絶対に日本に帰って来るんだぞ」と言われて、自分も「はい、そうします。」と約束してきたんです。ま、それから20数年ほぼずっとアメリカに暮らしてきたんですが、…。思いっきり嘘ついちゃいましたね(笑)。
それでPSUに交換留学で来るつもりが落ちちゃったので結局オハイオに1年行って、その時に自分が一番バカにしていた経済学を勉強したんです。それがいざやってみたら面白かったんですね、これが。

Nいよいよ経済学にはまっていくんですね。

Hiro ItoワシントンDCにある大学院で国際関係学というものを勉強しました。経済摩擦の勉強の延長線上ということで国際関係学の中でも国際法というものを勉強する予定だったのですが、やはり頭の中で経済学が面白いなと思っていたので経済学関連のクラスばかりとったんです。結局、なんで経済学を勉強したかってというと自分の中では一応一貫性があって、日米経済摩擦や国際経済法から始まって国際関係学に行き、結局国の行動なんて経済的な要因で決まるものじゃないかと思い、… それで経済に興味を持つようになったんです。

 

“私が高校生か、中学生の頃から、「日本はこれから世界でプレーする国になる、だから日本の考え方だけ持ってたら絶対に生き残れないぞ」とずっと言われてたんですよ。”

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Nアメリカに渡ろうというきっかけを作ってくれた人はいますか?

Hiro Itoこの人っていうのはいないかなぁ、…。
ただ、親戚に英語教師をやっている叔父が2人いて、小さい頃よくその叔父たちがアメリカとかに旅行したりすると写真をスライドにして親戚一同の前でプレゼンしてくれたんですよ。そんなおじたちからなんとなく世界には他の国がある、特にアメリカって国があるって教わったような気がしますね。

Nきっかけを作ってくれた人、しっかりいましたね。

Hiro Itoいましたね。あとは私が高校生か中学生の頃、父によく「日本はこれから世界でプレーする国になる、だから日本人的な考え方だけ持っていたら絶対に生き残れないぞ」ってよく言われてたんです。まぁ手前味噌ですが、父親からも影響を受けたといえますね。

Nアメリカに来てから影響を受けた人はいますか?

Hiro Itoそれはやっぱり博士課程の時の指導教員の先生ですね。
国際貢献=国連みたいなイメージがあったんで経済学を勉強すればそういう国際機関に勤められると思ったんです。そしたらその指導教員の先生が大学に勤めながら国際機関のアドバイザー的な仕事をやっていたんです。

Nまさに今歩んでいる道ですね。その方はどんな方ですか?

Hiro Ito今現在ウィスコンシン大学にいる中国系アメリカ人の先生なんですけど、その先生からは本当に色々なことを学びました。
今の自分の研究スタイルとか研究分野、学生とのかかわり方などすべてその先生の真似です(笑)。自分で言うのはなんですが愛弟子?のつもりです。その人がいなかったら今の自分は150%いないです。今でもその先生とは共同研究をよくします。かれこれ10年以上やっていますね。

 

“ジョン・レノンのイマジン的な「国境なんて宗教なんて」っていうのがあって。現実は全然そうじゃないんだけど…でも自分の心の中ではどこでも生きていける人間になりたいなって。”

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N学校ではどんな日常を送っていますか?

Hiro Ito正直、大学教授の仕事っていろいろ雑用がたくさんあって、学校にいればいるほど雑用を頼まれることが多いんで家で仕事していることが結構多いですね(笑)。
駆け出しの頃は授業の準備するにも何をやるにもものすごく時間がかかってたんですが、今は授業の準備も授業の前にパーッと復習して、「はい!ショータイム!」って感じで。

N「ショータイム」ってカッコイイですね!

Hiro Ito英語で生活をしていると、『なんで今日は舌がこんなに固いんだろう』とかあるじゃないですか? それはある程度越えたんですよ、20何年もいるから。
大学教授という仕事は喋れてなんぼの世界だから、話すときはなるべくメッセージを前に出して、動詞の時制が間違っていようと単数形と複数形が混乱していようと、とにかくメッセージを前に出して伝えるべきものは伝えようと思っているんです。

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Nアメリカで生活していて感じることは?

Hiro Ito自分の中で常に日米比較してるんですよね。もともとこちらで暮らし始めた時から自分の中ですごく親米的な部分とすごく親日的な部分があってその間を振り子がずっと振れてきたんですよ。ずっと長い間振れてくるうちに、最近その振り幅がずっと狭くなってきて、ちょうど真ん中あたりにきて今の自分と自分なりの考えができあがってきたんです。

N違和感のようなものを感じるということですか?

Hiro Ito良くも悪くも自分の居所がなくなるんですよ。Hiro Itoという今の自分という意味では確立したものがあるんですけど、もういわゆる『典型的な日本人』にはなれないし、日本的な考え方やもののやり方にイライラするときもありますしね。でも、そんなこと言ったところで自分はアメリカ人じゃないからアメリカ人にもなれないし、アメリカの中ではずっと日本的だったりするし。だから、居場所がないんです(笑)。心の中でジョン・レノンのイマジン的な「国境なんて宗教なんてないよねぇ」みたいな世界観があって、…。現実は全然そんな簡単じゃないってわかっているんだけど…、どこか心の中で「どこでも生きられる人間になりたいな」ってたわいもなく思ったりするんですよねぇ。

 

Hiro Ito

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ポートランド州立大学 伊藤宏之教授 マクロ経済学(国際金融)専攻
Ph.D. Economics, University of California, Santa Cruz;
M.A. Economics, UCSC;
M.A. International Relations, Johns Hopkins University;
B.A. Law, Waseda University, Tokyo

【研究内容】
・金融市場のグローバル化が世界の経済、特に発展途上国に与える影響
・通貨の国際化
・主要経済にショックが発生した時に世界経済に及ぼす影響

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