• そろばん塾経営者/講師

  • 坂林美和子

  • INTERVIEW

  • Writer Fumiko

Cool Portlander『そろばんを通じて伝える日本の心』坂林美和子先生

ポートランド、いやオレゴンに唯一のそろばん塾と言えば『Japanese Abacus Math School of Portland LLC(JAMS)』
その塾の経営者であり、講師の美和子先生は国籍や人種の異なる80名以上の生徒達にそろばんを指導されています。
そろばんと聞いて「あぁ、あの玉をはじくやつね。」という感想を持つ方もいるかもしれませんが、美和子先生はそろばんを通して子供達に『日本の心』というものを伝えようと日々奮闘しています。熱い魂を持った美和子先生に教わる子供達の表情は皆キラキラと輝いています。
このインタビューを通して『日本の心』は世界に通用する誇らしいものなのだと感じて頂けると嬉しいです。

Interview&Photos by Fumiko, Edited by Ryoma

ポートランドでも教育熱心な家庭が多く集まるベサニー(Bethany)地区(ダウンタウンから車で30分ほど)にあるJAMSを訪れた日は、ちょうど上級レベルの子供たちの試験日だった。
miwako-sensei-001

子供たちがそろばんを一心にはじいている。
アメリカ人、中国人、日本人、韓国人、フィリピン人、ロシア人、色んな国の子供たち。きびきびとした先生の声に従い、次々と出される問題に挑んでいく。彼らの真剣な顔に圧倒された。

しかし、いざ試験が終わるってみると、みんなとても素敵な笑顔に変わった。
「嫌な試験が終わって嬉しいんだろうな」と思ったらそうではないようだ。彼らはそろばんをはじいて問題を解くことを楽しんでいたのだ。だからその笑顔は、例えばスポーツの試合で戦った後に自然とあふれ出す笑顔と同じなのだ。
miwako-sensei-002

どうも、ここの子供たちはそろばんが好きでたまらないらしい。

「暗算ができると学校のレッスンが楽なんだよ!」

「学校の他の子よりもすぐに問題が解けることがすごく嬉しいんだ!」

「I’m shining up!(自分を磨きあげてるのさ!)」

そう答える子供たちの顔がキラキラ輝いている。
miwako-sensei-003

スポーツのようにそろばんを楽しみ、そして自分自身に誇りを持てる。そんな子供達を指導している美和子先生とはどんな方なのだろうか。

Nオレゴンでそろばんを教えることになったキッカケはなんでしょうか?

ニューヨークタイムズを読んでいた元ご主人が、その中で紹介されていた算盤の先生の記事を見て言ったひと言がきっかけ。

「君もそろばんの才能を活かして仕事をしたらいいんじゃない?」

miwako-sensei-004

しかし、その時は「なんで私がそんなことしなければならないのか?」と思った。なぜなら自分の才能をひけらかすということは恥ずかしいことだと思ったからだ。日本人特有の奥ゆかしさだ。しかし、美和子先生は気づいた。

「ああ、私が教えないと誰もこのそろばんという技術を伝えることはできないんだ。」と。
そして2001年に生徒2人から教室をスタートした。

 
Nここでそろばんを学ぶことによってどんな利点があると思いますか?

「ここでできる人間はどこに行っても絶対にできる」

人としてあるべき基本、躾をきちんと体得した子は世界のどこにいっても通用する、ということがここで学ぶ利点だ。

miwako-sensei-005

そう言い切る美和子先生の顔は自信と笑顔に満ち溢れていた。ここでは日本人の心を教えているのだ。

「そろばんは日本の心だから。」

 
Nそろばんがなぜ日本の心だと思うのでしょうか?先生にとって日本の心はなんだと思いますか?

「日本の心とは人に対する尊敬の気持ち。」

日本人は他人との適度な距離感を大切にする。目上の人だろうと年下の子だろうと相手を尊敬する気持ちが大切。
「思いやりの気持ちがあるから人を尊敬することができる。」
miwako-sensei-006

アメリカでは学校の先生に対して授業中は敬称をつけて呼ぶが、いったん授業が終わると呼び捨てである。その状況を先生達も受け入れているのがこの国の常識なのだ。しかし日本は違う。先生は授業が終わっても先生なのだ。決して呼び捨てされることはない。

 
N色々な国の子が習いに来ていますが、教える際に何に気を付けていますか?

日本人だけに教えるのは楽、というのも基本の躾がきちんとできているから。
私が教室で注意するようなことは日本人の親御さんならすでにきちんと家庭で躾ている。
日本人の自分が基本だと思っていることが、違う国の家庭では基本ではないことが多い。例えば座り方ひとつ、違うのだ。自国では許されてもこの教室で教わる姿勢として不真面目だと思うことは許さない。基本的な言葉づかいや態度をきちんと教え込んでいくことが大切なのだ。
miwako-sensei-007

「基本はきっちりと守らせる。しかし、その為に彼らが持っている才能を潰すようなことはしたくない。」

例えばアメリカに住んでいる子は左利きが多いが、実際にそろばんを扱うときは右手を使わせる。この基本は守らせる。しかし、一方で暗算をする時に使う頭の中に浮かぶイマジネーションのそろばんを扱う時は左手を使っても注意しない。なぜなら左手でイマジネーションのそろばんをはじきながら、同時に右手で回答を書けるからだ。こんな合理的なことができる才能を潰す必要はない。
miwako-sensei-008

 
Nアメリカでそろばんを教えていて何が難しいと思いますか?

「難しいというか、チャレンジね。この国は十人十色。それがいい。この十人十色を壊したくない。」

自分の国の常識が別の国では非常識だったりする。それはその子の持つ色、個性なのだ。だから人種の違いでその個性がおかしいと捉えることはしたくない。その子の個性は壊さない、でも人間の基本として大切な「芯」は絶対に教えなくてはならないというところが難しくもあり、チャレンジなのだ。
miwako-sensei-009

個人の自由が尊重され、大抵のことが寛容に受け入れられるアメリカ育ちの子供は、初めはそろばんの扱い方がめちゃくちゃだ。ペンを使って玉をはじいたり、肘をつきながらやったりする。しかし彼らにとってそれのどこが悪いのかが分からない。
そろばんの扱い方を通して人からなにか教わるときの態度、一緒に学んでいる人への思いやり、物を大切にする心、そういう「芯」を教えていくことが難しい。

 
Nポートランドでそろばんを教えるうえで良い点、悪い点を教えてください。

「良い点はアメリカの良いところ、日本の良いところを両方教えることができること。」
miwako-sensei-010

ここで育った子供たちの持つ「アメリカ的な感覚」に「日本の感覚」を融合できるように教えている。
アメリカでは人より抜きん出ることが良いという考え方をもつ為、自分よりもできない者に対して傲慢な態度を取る傾向が強い。一方、日本人は他人より抜きんでることは良くない、みんな同じが良いという考え方をもつ傾向が強い。

「自信と思いやりを共存できる人間に育つようにここでは教えている。」

そろばんを習うことで、学校の他の生徒よりもずば抜けて計算力が高い子供たちに自信や誇りを持たせる。それと同時に自分よりも計算力が低い子に対して傲慢な態度をとるのではなく、やり方を教えてあげて共に成長していけるよう、手助けする優しさを持つ人間に育てたい。
miwako-sensei-011

「悪い点は特にないが、教室を初めた頃は生徒が全員日本人だったら楽なのに、と思ったことはあった。」

ただそれは自分の経験が浅く、アメリカ的考え方を無理やり日本的な枠の中に全てを押し込めようとしたからだと思う。その当時はアメリカ的な考え方を受け入れられなかった。しかし、今ではその考え方を受け入れられる許容範囲が自分に養われたと思うので悪い点とは感じなくなった。

 
Nお子さんを持つ親御さんに伝えたいことはなんでしょうか?

「Please Back Off(見守ってあげてください)」

例えば、この教室にそろばんを習いにこさせるということは子供の将来のために投資をしているということだ。それなら子供に手を貸して助けるのではなく、後ろでただ見守ってあげればいい。

miwako-sensei-012
「助けは子供を台無しにする。」
靴を履けない子供に親が手を貸して靴を履かせてあげてはダメなのだ。自分でやれる力をつけさせることが大切。確かに国も違うので親御さんと自分では躾の仕方が違う。でもここを信用し、自分を信用して預けてくれているのなら日本流の「躾・尊敬・思いやり」を学んでいる子供をそっと見守ってやって欲しい。

 
Nそろばんの魅力を言葉にするとなんでしょうか?

「あるけれど、何も無い。見えるけど、見えてない神秘の力。」
miwako-sensei-013

物体である「そろばん」だけが「そろばん」だと思っている人が多い。しかし、「そろばん」は頭の中にあるものなのだ。

それを顕著に感じる機会がある。2年に1度、ポートランド州立大学で盲学校の先生を目指している人達にそろばんを教えているのだが、そこでやっていて思うのは目の見えない人の方がすでにイマジネーションのそろばんを持ち、健常者よりも暗算の才能を持っているということだ。
目の見えない人は実際にそろばんをはじかなくてもいい。物体であるそろばんがそこに無くてもいいのだ。なぜなら目の見えない人はいったん物体であるそろばんを触ったらその時から頭の中にそろばんの形を描き、暗算を始めることができるから。

「そろばんとは見えているけど見えない。そして常にそこにある。そして誰にも邪魔されない。」

 
Nデジタル社会の今、そろばんが見直されているのはなぜだと思いますか?

「目で見て、指で触って、耳からも学べるものって他にはないと思う」
miwako-sensei-014

子供というのは手を使って触りながら何かをやることが好きだ。たとえそれが目の前になくてもその感覚を想像し、使うことができる。こんなことはデジタルの計算機ではできないことだ。なぜなら計算機は目で数字を確認しなくてはいけないから。
そろばん、特に暗算を学ぶことで子供は想像力が訓練される。暗算はイマジネーションの世界なので、自由にその世界を広げていくことができる。世界を広げることで子供たちが成長していく。

 
N最後にそろばんを教えていて嬉しいと思うことはなんですか?

「ここでは私しか持っていないそろばんの技術を通して、日本流の躾・尊敬・思いやりを生徒に伝えることができる。」

基本の躾が身に付いた子供たちは将来どこに行っても自信と誇りと相手への思いやりを常に持って生きていけると確信している。ここで学んだ子供たちの将来に期待しているし、素晴らしい大人にきっとなってくれると信じている。彼らに人として大切なことを教えられることが最高に嬉しい。

Miwako Sakabayashi

miwako-sensei-015-2

小学校2年生で算盤を始め、4年生で日本珠算連盟算盤1級取得。6年生で全国大会小学生の部3位獲得。中学に入って算盤塾に通うことはやめてしまったが、ずっと算盤に対する情熱は持ち続け、独学で勉強していた。
1992年に結婚を機にオレゴンへ渡り2001年JAMSを設立。現在はご自分のそろばん塾経営にとどまらず、地元の小学校やポートランド州立大学の特別カリキュラムで講師をされている。

『The Japanese Abacus Math School of Portland LLC(JAMS)』

place 15160 NW Laidlaw Rd., #215, Portland, Oregon 97229

web WEBサイト

web Facebookページ

電話:503.419.8040

Share This By

Popular Articles

※「夕焼け新聞」掲載記事より転載   「夕焼け新聞」(ポートランド・オレゴンの在日邦人、日系アメリカ人向け月刊フリーペーパー)で連載を持つことになりました。リクエストは若者向けのローカルな記事。なんだけど、ナウなヤングに受けそうな、オシャレなことやグルメなことは、ぼくには書けそうにない。考えてみた...

ポートランドのドリンク業界、フード業界で超有名なRed Gillen(レッド・ギレン)さん。人当たりが良く、愛らしい人柄は多くの人達を魅了している。だから彼がドリンク業界やフード業界のことを日本語で綴る「オ州酒ブログ」は大人気。クラフトビールをこよなく愛するレッドさんは今やポートランドと日本のクラフトビール業界を結...

With both housing prices and rents marching relentlessly upwards, Portland’s status as one of the most heavily moved to cities is creating a whole lot of demand...

オレゴンでワイン造りに挑戦している日本人女性ワインメーカーの芝明子さん(Noren東京イベントでは明子さんのワイナリーを紹介させて頂きました)。 ドイツでワインについて学び、ドイツのワイナリーで修行の後、オレゴンでご自身のワイナリーを始めました。日本人でワイナリーをやっているというだけでも珍しい中、女性のワインメーカ...

今回のオレゴンぷち旅ではポートランドから車で南へ2時間のユージーン近郊にある楽しいスポットをご紹介。 車でハイウェイI5を南に走り約2時間でユージーンの街に到着。ユージーンはスポーツチーム【ダックス】が所属するオレゴン大学がある街。ダックスについての詳し情報はこの記事をご覧ください。 ポートランドでアメフトのフ...

In a previous article titled “Did you know that Japanese Americans in Portland were once forced to move?” we mentioned the “Yosegaki Hinomaru Return Effort”,...

「Keep Portland Weird」(いつまでもヘンテコなポートランドでいよう)というキャッチフレーズは有名だけど、新しく「Keep Portland Affordable」(ポートランドをお求めやすいお値段で)という言葉も必要かもしれない。もう手遅れかもしれないけど。 Photo by Tsubo ...

昨年ダイジェスト版を掲載した、Portland Development Commission(ポートランド市開発局:以下PDC)の山崎満広さんの記事。今回はダイジェスト版での第1部、PDCでの仕事についてお聞きしたお話をフルバージョンで紹介します。 オレゴン州、ポートランドは理想的な創造都市として...

以前の記事「ポートランドの日系人が強制移住させられた歴史を知っていますか?-Oregon Nikkei Legacy Center」の中で「寄せ書き日の丸(日章旗)返還」について触れているが、今回はこの「日章旗返還」について詳しく知りたいと思い、映画「グーニーズ」の舞台として有名な海岸沿いの街、オレゴン州アストリア...

Have a nice day!

外が雨なら出かけよう、
ポートランドの魅力を伝える
WEBマガジン